組織実行力を高める4つのポイント/中小病院の人事制度設計Vol.01
-
業種
病院・診療所・歯科
- 種別 ホワイトペーパー
戦略を実行できる「組織」をつくる
中小病院が人事制度によって組織実行力を高める4つのポイント
- 労働人口の減少、新規事業拡大、M&A、事業承継、職員の多様化、コンプライアンス強化、働き方改革、生涯現役モデル・・・組織運営を取り巻く環境は劇的に変化しています。
- これまで通用していた組織マネジメントが通用しなくなり、多くの経営者の方々が組織づくりに頭を悩ませています。
- 「戦略を実行できる組織」をどうつくるか。病院経営者の方々、経営幹部の方々に、組織人事のコンサルタントがコンサルティングの知見・エッセンスをレポートします。
お役立ちBOOKの無料ダウンロードは、画像をクリック
病院経営における戦略変更の舵取り
地域医療構想へ向け、ベッド数200床未満の数多くの「中小病院」でも、病院経営における戦略変更の舵を切り始めました。
しかし、「戦略は組織に従う」という言葉もあるように、戦略は地域のニーズに対して論理的に策定すればよいというものではなく、それぞれの病院のカルチャーや大事にしている価値観によって大きく影響されるものです。
また、どれだけ素晴らしい戦略を策定したとしても、実行されなければ成果に繋がりません。実行できるか、徹底できるか、徹底させる職員がいるか、徹底する職員がいるか、そして組織文化として、実践実行の文化が育まれているか・・・。
「経営の良し悪しは、戦略よりも実行の徹底度で決まる」と言えるでしょう。
そこで、今回は、「人事制度によって組織実行力を高める」をテーマに、4つのポイントをご紹介します。
関連ページ: 中小病院の人事制度設計Vol.02「各階層に求められる役割・成果」
Point1 医療者としての能力だけで管理職を決めないこと
事業である以上、経営・マネジメントが存在する
医師や看護師になるきっかけは人それぞれです。医師になることが宿命づけられた人もいれば、人の命を救うという高潔な思いによって看護師を志した人もいます。きっかけは様々ですが、日々、目の前の患者を救ったり、助けたりされているという現実があります。
そのような中で、「医療はビジネスではない」とよく言われます。「ビジネス」という言葉に含まれるニュアンスに「お金儲け」が含まれていることが、その原因なのでしょう。
確かに、医療はビジネスではないかもしれません。しかし、事業であることは間違いありません。事業である以上、経営・マネジメントというものが存在します。
医療者として優秀であること、管理者として優秀であること
組織人事を考える上で重要なことは、「医療者として優秀であることと、管理者として優秀であることは全く別物である」ということです。というよりも、全く別の技術なのです。しかし、医療機関においては、医療者として優秀な人・医療技術を教えることが上手な人が、そのまま管理職になられているケースが多く見受けられます。
管理職は戦略を遂行する為に、各種経営指標(病床利用率や入院平均単価など)を目標にしながら、計画を職員にも共有し、皆で達成していくようにコミュニケーションを取って、組織運営をしていきます。そのような役割が求められるのが、管理職なのです。
その為には、「人材育成能力」、「他部門と連携する能力」、「柔軟に対応調整する能力」などが必要になります。つまり、組織を動かすことができる能力です。
戦略を実行するためには、組織を動かす能力を持った者をどれだけ育成、配置できるかが、重要ポイントとなるわけです。
多くの中小病院では、大病院のように人材を育成する教育体系が整備されているわけではありません。また、サービスの質、それを担う人材のレベルは、簡単に引き上げることはできませんし、ましてや多少の費用で購入することもできません。だからこそ、評価のための人事制度ではなく、「人が育つ仕組み」としての人事制度の整備が求められます。 |
Point2 求める役割と成果を定義すること
役職者の役割や果たすべき責任が明示されていない
人が育つ仕組みを実現する為には、まずは、人材に求める要素を定義する必要があります。
例えば、管理職であれば、経営者の描くビジョン・戦略を実現するための具体的計画、つまり戦術と目標を作成し、課員に伝達しながら、また、他部門との連携をとりながら、目標達成に導くことが求められます。
しかし、多くの中小病院では、役職者の役割や果たすべき責任が明示されていません。
上司に頼まれて仕方なく主任に昇進した、けれども主任にどのような役割・責任があるのか、あるいはそれを果たす為にどのような能力を身につけなければいけないのかよくわからない。
また、部門によって伝えていることが異なり、同じ主任でも役割・責任の遂行レベルに大きなばらつきが発生している。
そんなことが少なくありません。
まずは理念に紐づく思考・行動を体現した人材を求めたい
一方、病院経営者の方々と話をしていると、「求める人材像」に、「成果を出す」つまり業績目標を達成することをはっきり打ち出されているケースは稀だと感じます。
それよりも、まずは理念に紐づく思考・行動を体現した人材を求めたいとおっしゃいます。「思いやり」「優しさ」などです。
しかし、これらの言葉も人によって解釈が異なります。
どのような思考・行動を求めるのか行動指針として明文化し、組織の中で伝達し、共通に解釈されなければ、抽象的な概念で理念を体現した人材が育つことは、まずないでしょう。
人事制度を通して、職員への期待やメッセージが伝えることが重要です。各階層の職員に対してどのようなことを期待するのか、法人の理念を体現するためにどのようなことを求めるのか、それらを定義することが、人事制度作りのスタートです。 |
Point3 評価と教育とを連動した仕組みにすること
上司が部下を期待レベルにまで引き上げていく
人事考課制度と一言で言っても、目的によって作り方や運用方法は異なってきます。
例えば、査定をして処遇格差をつけるためのものであれば、絶対評価ではなく相対評価でもいいかもしれませんし、結果のフィードバックも必要ないかもしれません。
しかし、それでは人は育ちませんし、組織は動きません。
組織行動力を高める為には、役割や責任をもとに人事考課項目および基準を作成し、それらをオープンにするとともに、絶対評価で評価し、フィードバックや日常のコミュニケーションを通じて、上司が部下を期待レベルにまで引き上げていく、そのような運用が必要です。
評価をすることではなく、育てることが目的
病院経営者の方々が人事考課制度の導入をためらう一つの理由として、「うちの役職者は育っていないから、部下の評価をすることは難しい」とおっしゃることがあります。
では、何ができれば、役職者は育ったと言えるのでしょうか。大切なことは、部下を評価する能力を身につけることではなく、人事考課制度を活用して部下を育て上げるという考えや覚悟ではないでしょうか。
部下を育て上げるためには、部下の課題、つまり、求める人材像とのギャップを明らかにし、その差を埋める為の日常的なコミュニケーションやフィードバックが必要です。
当然、自分自身も求める人材像として期待レベルに到達するために努力をするでしょう。
「あんな上司に評価をされたくない」と部下から反発の意見が上がることもありますが、それは、上司が部下に向き合っていないからだと思うのです。
人事効果において大切なことは、部下を評価する能力を身につけているかどうかではなく、人事考課制度を活用して部下を育て上げるという考えや覚悟を持っているかどうかということ。 |
Point4 年功的な昇給システムから脱却すること
病院業界の年功的昇給システムはもう限界
独立行政法人福祉医療機構の調査によると、一般病院、療養型病院、精神科病院の全てで人件費率が上昇傾向にあります。
その要因は、患者規模100人あたりの従業員数が増加していることと、従業員一人あたり人件費が増加していることだと発表されています。
日本の財政状況や社会保障費のふくらみを考えれば、今後、診療報酬が大幅にアップすることは望めません。そのような中で、年功的に昇給をさせていけば、職員が高齢化することで人件費率は高まってしまいます。
人件費率を下げようと思えば、昇給を停止する、賞与支給月数を下げるなどが考えられますが、職員の意欲を低下させれば、最悪の場合は大量離職につながることもあります。
大減収時代を生き残る賃金制度とは
では、どのような賃金制度であれば生き残ることができるのでしょうか。
「国家公務員の医療職俸給表を参考にして、賃金表を作成している」、あるいは、「賃金表などなく、毎年経営者のさじ加減で昇給している」。そのような中小病院は、早急に賃金制度改革に着手する必要があります。
具体的には、年齢や年功ではなく、職務や役割に応じた基本給設定をするとともに、それらの責任の大きさに応じて昇給額の上限を設定することが必要です。
また、支給意図が時代にあっていない手当や、属人性の高い手当などを廃止し、シンプルな体系に見直すことも求められます。
賞与は業績に応じて先に原資を決定し、それを人事考課などによって分配する仕組みに切り替える必要があります。
現状の仕組みや人件費率の将来推計によって、どのような賃金制度が望ましいかは異なります。
しかし、まずは現状を分析し、今後の方向性を検討することが急務です。
年功的昇給システムで運用している中小病院は、早急に賃金制度改革に着手し、今後の方向性を検討する必要があります。 |
まとめ 人事制度によって組織実行力を高めるためのポイント
医療・介護経営において、戦略に大きな差は生まれにくいものです。差がつくのは、実行力の差です。
実行力の源は、その組織の組織力に他なりません。
組織力と実行力を高める方法には、ある程度の「解」があります。
組織実行力を高める組織づくりを、私たち日本経営グループがサポートして参ります。